1|はじめに


皆さんはどうして大学院への進学を希望するのでしょうか。「研究がしたいから」「公認心理師の資格が欲しいから」理由は様々だと思います。ただ少し待ってください。現在大学院に進学したとして、本当に皆さんの希望する未来が待っているかは考える必要がありそうです。

例えば、公認心理師ですが、現在でもすでに人手は余っていて、正規雇用されることは難しいという現実があります。研究職を希望するならなおさら就職は難しく、そもそも企業は大学院の枠を用意しているところは少数ですし、大学での非常勤職をしながらほそぼそと研究を続けている人が大勢います。

つまり、何もかもを投げうって大学院に行って(資格を得てから)、就職を考えるというのはかなり危険と言わざるを得ないということです。では、大学院に行くことに意味がないかというと、そうではありません。職を得るためのものではなくて、すでに働きながら大学院に行くということであれば(つまり生活基盤を整えたうえで大学院に行く)、皆さんの未来の選択肢は広がるかもしれません。資格を得ることで転職の可能性が増える、社会的な活動場面が増えるなどです。

加えて、通学制で4年間学業に専念して進学をしてくる学生と、通信教育課程において仕事や育児などとの両立で限られた時間の中で学修して進学する学生では、おのずと知識の総量(例えば、多変量解析をはじめとした統計的な知識)も異なってきます。それらを踏まえたうえで、進学をするかどうかを、自分の人生の未来設計の中に組み込みながら考えていただきたいと思います。

<aside> 💡 このページでは、大学院進学に関心のある方を対象として、大学院進学に関する一般的・基礎的な事項をまとめています。希望する大学院に応じた個別具体的な情報についてはご自身で調べていただくことが必要です。

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2|大学院について


大学院には二つの課程があります。初めに行くのが2年制の修士課程で、その修了者が行くのが3年制の博士課程となります。英語では、修士を「master(マスター)」、博士を「doctor(ドクター)」というため、修士課程をM1、M2、博士課程をD1、D2、D3と言ったりします。また修士課程のことを博士前期課程、博士課程のことを博士後期課程と呼ぶところもありますが、結局名称が異なるだけで、初めの2年で授与されるのは修士の学位、後半で得られるのは博士の学位となります。

大学院では、一定数の単位を修得することが要求されます。修士課程では通常30単位を必要とされることが多いです。また、博士課程では「修士課程と通算して38単位(つまり博士課程は8単位だけ取得する)」というところもあれば、博士課程だけで16単位取得するところもあります。

単位を修得するという面から、「大学院は大学と同じようなところ」と思われる方もいるかもしれませんが、これらは全く異なります。大学院での主たる目的は、指導教員に論文指導を受けながら修士論文を執筆するということです。そして修士論文は学術的なルールに則った調査や執筆方法を満たしている必要があります。

また、大学院では論文の執筆指導はなされますが、その他は自助努力が基本です。どんな研究をするのか、どんな分析をするのかも、相談には乗ってくれますが、そのやり方を手取り足取り教えてくれるわけではありません。その都度本を読んだり、インターネットで調べたり、時には講習会に出たりしながら自分で進めていきます。つまり、大学院生は、学生という立場ではありながら、研究員として自分の研究は自分で進めていくという必要があります。

<aside> 💡 公認心理師資格取得を目指した大学院進学の場合、研究活動とともに公認心理師指定科目として450時間以上の実習があるため、さらに多くの時間が必要となることに注意してください。

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3|大学院に入学するために


1)研究計画書の作成

大学院受験の際には「研究計画書」の提出を求められることが多くあります。研究計画書には、修士課程在学中の2年間で行う研究の計画書を作成します。大学によって、書式が指定されていることもあれば、そうではないこともあります。研究計画書の作成についてはとても悩まれる方が多いと思います。

では、基本的に研究計画書ではどのような内容を記載すればよいのでしょうか。研究計画書の作成のためには、基本的に次の5つの内容が記載されていなくてはなりません。

研究計画書の5つの構成

  1. 研究背景→なぜこの研究が必要なのか
  2. 研究目的→研究の達成目標はどこなのか
  3. 研究意義→自分の研究は社会において何に役立つのか
  4. 研究方法→どのような方法で研究を行うのか
  5. 引用文献→計画書の作成のために調べた書籍や論文、政府刊行物など各種資料

研究背景

研究目的に対する理由と言った方が良いのかもしれません。具体的には過去の先行研究を調べて、自分が明らかにしたいことがすでにどこまで明らかになっているのかについて記載する必要があります。基本的には3つの内容から構成されています。

  1. 政府刊行書や社会的な統計データから、解決すべき課題や問題となっている社会的現状をまとめる。

  2. これまで行われてきた研究の内容、どこまで明らかになっているのかについてまとめる。

    例) 高齢になると心身機能に衰えが生じるために、自動車を安全に運転するための能力が低下する(Duchek et al.,2003)。

  3. これまでの研究の中で問題を指摘する。

    例) 高齢ドライバーの多くは,心身機能の衰えに伴う運転能力の低下に応じて運転方略を変化させており、運転能力の低下だけで、高齢ドライバーの危険運転を説明することはできない (Trick et al., 2010)。すなわち、高齢ドライバーによる交通事故は、危険な交通場面であるにもかかわらず、自分にとってネガティブな感情を喚起するような情報を処理しないために生じている可能性がある。

研究目的

2年の期間内で、何を、どのように、どこまで明らかにするつもりなのか、ということについて述べる必要があります。全体の目的を書いたのち、1年目と2年目で何を達成するのかというサブテーマに分けて書くと分かりやすいと思います。

例) 本研究では、外界の情報を処理する過程に着目し、従来の認知機能の低下では説明できない高齢ドライバーの交通事故につながる危険運転のメカニズムを解明する。1年目は実験室で交通場面の刺激を用いたドットプローブ課題を行い、嫌悪的な交通場面が注意機能におよぼす影響を調べる。2年目は、1年目と同様の交通場面の刺激を用いたハザード知覚課題を行い、嫌悪的な交通場面が判断機能におよぼす影響を明らかにする。

研究意義

研究目的が達成できたら、社会に対してどのように役立つのでしょうか。あるいは、研究分野において、どのような貢献ができるのでしょうか。

例) 以上により予想される結果と意義は、高齢ドライバーの危険運転について、情報処理のバイアスという観点から理解が進み、認知機能の低下というフレームワークを見直すことによって、高齢ドライバーの交通事故を減らすことに繋がる可能性あるという点で意義付けることができる。

研究方法

研究目的を達成するための研究方法について、具体的に記述する必要があります。1年目と2年目のそれぞれについて誰を対象に、調査ならどのようなアンケート調査を行うのか、実験ならどのような刺激や装置を用いるのかについてそれぞれ記述します。

例) 認知段階の運転に関わる機能の課題として、若年者と高齢者各30名を対象に、「ドットプローブ課題」を行う。コンピュータの画面上に通常の交通場面と対になった危険な交通場面を想起させる嫌悪刺激を同時に1秒間提示し、その後どちらか一方に表示される小さなグレーの点をタップし、その反応時間を計測する。

引用文献

研究計画書を作成するために、本文中に引用した論文・書籍について、すべて記載します。日本心理学会「執筆・投稿の手引き」を参考に記述しましょう。

2)試験

筆記試験(外国語と専門科目)、面接試験で構成されている場合が多いです。まずは大学のホームページを調べたり、事務局に直接問い合わせて確認するようにしましょう。

過去の問題を取得し、筆記試験の対策も忘れずに準備しましょう。郵送してくれる場合もありますが、大学に直接出向いて印刷することが多いのかなと思います。大学によってはホームページ等から入手できる場合もあります。過去の問題を見ると、その大学の大体の出題傾向が分かると思います(心理学一般、臨床心理学、統計学など)。そのうえで(例えばヒルガードの心理学を参考にするなどしながら)計画的に勉強を進めましょう。

過去問題一覧

放送大学大学院 過去問題一覧(参考)

専門科目

外国語(英語)

3)面接試験

面接試験では、大学院の志望動機の他に、例えば公認心理師を目指す人ならそれを目指す理由や、これまでのキャリアなどの一般的な質問、大学院で研究したい内容について研究計画書に基づき質疑応答が行われます。受験する人同士で一緒に練習するなどして、できるだけリラックスした状態で受けられるように準備しましょう。

4|大学院進学のための情報収集について


1)大学院の進学のために使用できるウェブサイト

大学院の進学のための情報が以下のウェブサイトにありますので参考にしてください。また、以下のサイト以外にも書籍などにあたり調べてみてください。社会人を対象とした大学院の情報も記載されています。

2)大学名か、指導教官か?

大学進学の時は、大学の名前や偏差値などが中心となった方も多いのではないでしょうか(もちろん大学のオープンキャンパスなども判断の一因になったと思います)。大学院では、必ずしもそうではありません。例えば、自分が交通の研究がしたいとして、希望する大学院にそれを専門とする教員がいなければ研究することはできません。つまり、大学院は専門知識を深め研究する場ですので、どこの大学に所属するのかも大事ですが、それ以上に誰に指導をしてもらいたいのかということが、大学院選びに大きく作用します。そのためには、自分で指導してもらいたい教員の情報を検索する必要があります。

教員の情報は大学のホームページに記載されています。

例)京都橘大学 教員プロフィール

データベース型研究者総覧であるresearch mapなどで研究者を探すことができます。research mapは、30万人を超える研究者の情報を氏名や所属だけではなく、論文の業績からも検索可能です。

5|終わりに


このページは、大学院への進学を検討する方へ向けて、大学院について知るための出発点となることを目指して作成しています。さらに個別具体的な情報については皆さん自身で調べていただくということが必要です。場合によっては、指導を仰ぎたい教員のゼミを訪問して、先生のお話をあらかじめ伺っておくことや、研究室の雰囲気を知っておくことも考慮しておいてもいいかもしれません。

大学院に行っても、大学の時に勉強したことが基本となります。夢を実現するためには、まず大学の授業を大事にすることが大切です。Google scholarの検索ツールのトップページには、「巨人の肩の上に立つ」と書かれてあります。これは「自分が遠くを見ることができるとすれば、それは巨人の肩の上に乗っているからだ」ということを意味しているそうです。巨人とはまさに先人の研究者たちが積み重ねてきた研究を指しています。一つ一つの知識を丁寧に積み重ねていくことが、夢に続く懸け橋になることを願っています。

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